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人喰いの大鷲トリコ
スタッフ特別座談会 第三回

上田文人×田中政伸
(聞き手)丹治まさみ

人喰いの大鷲トリコ
  • タイトル

    人喰いの大鷲トリコ Best Hits

  • 発売日

    2017年12月14日(好評発売中)

  • ジャンル

    アクションアドベンチャー

  • 対応フォーマット

    PlayStation®4

  • PS4®Pro ENHANCED

    4Kテレビ接続時は4K解像度に適した高精細な画質でプレイできます

  • 価格

    パッケージ版 3,900円+税
    ダウンロード版 3,900円+税

  • CERO

    B(12才以上対象)

発売:(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント

開発:(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント World Wide Studios JAPAN Studio

第21回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門 大賞受賞記念、『人喰いの大鷲トリコ』特別座談会の続きとなります。引き続き様々な質問・疑問に答えていきます。 前回に引き続きネタバレに関する話題を含みます。
まだクリアされていないという方は、是非最後までプレイしたのち、改めて御覧ください!

(太字:丹治まさみ)

上田文人
  • 上田文人(うえだ ふみと)
  • ゲームデザイナー、ゲームディレクター。代表作は『ICO』『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』
  • 田中政伸(たなか まさのぶ)
  • 『人喰いの大鷲トリコ』リードアニメーター。『ワンダと巨像』にもアニメーターとして参加。
  • 聞き手:丹治まさみ(たんじ まさみ)
  • 『人喰いの大鷲トリコ』ナラティブデザイナー。キャプテンミライ名義でボカロPとしても活動中。

genDESIGN(ジェン・デザイン)について

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上田文人をはじめ『ICO』『ワンダと巨像』 の開発に携わり、リードしてきたスタッフが中心となって集まったスタジオ。『人喰いの大鷲トリコ』では、上田文人の下、クリエイティブ全般を担当。
ゲームデザイン、アニメーション、レベルデザイン、モデリングなど、クリエイティブ全般のディレクションを少人数の精鋭されたスタッフで行う。
ジェン・デザインでは現在スタッフを募集中

第3回
「ウカイヤとトリコウノ」

引き続きストーリー部分を掘り下げて聞いていきたいんですが、
『ICO』や『ワンダと巨像』もそうでしたけど、あえて多くを語らず余韻を残すことで、強く印象に残るストーリーになってますよね。で、いきなりエンディングについてなんですけど、『人喰いの大鷲トリコ』では、あのエンディングに決定するまで紆余曲折ありましたよね。

インタビュー風景

上田 そうだね、実はエンディングには、プロットの段階で何パターンかあったんだよね。わかりやすところだと、トリコが村に”戻らないバージョン”と”戻るバージョン”。で、ご存知のとおり、決定稿は後者。

―それもコンテ作業に入るギリギリまで悩んでましたよね。 改めて思い出してみたんですけど、決定稿を知っているだけに、トリコが村に戻らないバージョンはあまりに救いがありませんでした……

上田 大鷲の巣を取り囲む崖の上にトリコと少年が飛んで、少年を崖上に乗せたはいいけど敵対するもう一匹の大鷲に、最後の最後にもう一度邪魔されて。トリコだけ崖上に上がれずに落下してそのまま消息不明になる。トリコの飛行中にもう一匹の大鷲がカットインするのはその時のプロットの名残。で、崖上から少年は一人で数週間ほど歩き続けて村に戻る的な。

―そのエンディングは少年にとって結構ハードな展開ですよね(笑)。トリコと離れ離れになった上に、数週間歩いて帰る……それはそれでどう決着をつけるのか見てみたかったですけどね。ハードといえばエンディングではトリコがけっこうかわいそうな目にあいますが、あれは制作時に残酷さの表現度合についてのやりとりがあったと記憶しています。

上田 そうだっけ?憶えていないんだけど、たとえば?

―トリコが塔で他の大鷲に襲われるところから、最後村に戻って村人から攻撃される、っていう一連のシーケンスで、「刺激が強いので、もうちょっと表現を抑えられないか」とか「いや、集団にとって危険を排除しようとするのは当然だし、もっと残酷でもおかしくない」とか。

上田 村人からすると、子どもが連れ去られたところと、大鷲が落ちてきて子どもを吐き出したところしか見てないわけなので、行動としては正しい。確かにものごとを一側面からしか見ないと残酷に感じるのかもしれないけど……どの部分に主観を置いて演出するかによってぜんぜん違った話になるし、現実世界にもこんなことは多々あるよね。 というか、残酷描写に関しては、丁度『ゲーム・オブ・スローンズ』にハマってた時期でもあったから、その辺の感覚が麻痺してたせいもあるかも(笑)

※ゲーム・オブ・スローンズ:アメリカのケーブルテレビチャンネルHBOで放映されているファンタジードラマシリーズ。非常に残酷でリアルな描写が多い。現在シーズン7まで放映されている。

―確かに『ゲーム・オブ・スローンズ』にはかなりハマってましたよね(笑)『ゲーム・オブ・スローンズ』もそうですけど、無意味に残酷、という訳ではなくて、それぞれの行動原理と、あるいはその視点がどこにあるかによって、たまたまそう見えてしまうって事ですよね。ただ、 少年が大鷲にさらわれたシーンですが、村長がそんなに悲しんでない、というか、どこかあきらめているように見えました。そもそも本当にさらわれて欲しくないのだとしたら、子どもたちだけを集めて寝かせてるのは不自然な気もしますよね。

上田 村全体としては、もしかしたら避けるべき事故ではなくて運命として受け入れてたと。「選ばれしものと共に」って感じだし。

―なるほど。諦めていたところで村にトリコが戻ってきたわけで、村人は相当びっくりしたでしょうね。さらに、そこから繋がるエンディングの流れを聞きたいんですが、「最後の指示」はどういった過程で生まれたのか、という質問もあります。

上田 これはジェスチャー操作の導入を決めた事にも関係しているかな。いろいろな理由で、ゲームコンセプトが「トリコに掴まって進むゲーム」から「トリコに指示をするゲーム」に少しづつ変わっていったのもあったから、そういったコンセプトで一本筋を通す為にああいったインタラクションを追加したんだよね。

―エンディングで操作できるフィーチャーは『ICO』、『ワンダと巨像』でもありましたけど、『人喰いの大鷲トリコ』は感情とのシンクロ率がより高かった印象があります。

上田 そうなのかな?アイディアを思い付いてすぐに制作チームで使ってるチャットにこのアイディアを投げたところ、思いのほか評判も良く皆乗り気だったので、スケジュール的にはタイトだったけどなんとか入れられたってのもある。今作では「指示を出す」というのが全体を通して非常に重要な要素なので、最後の最後に指示を持ってこれたのは非常に意味があった。

―カットシーンで、かつプレイアブル要素もあって、実装にはいろいろと仕込みが必要だったので、スケジュール的に厳しそうでしたけど(笑) なんとかねじこめたんですよね。

田中 このゲームを締めくくれるアイディアで、大変でしたけど、最後の追い込みの中、JAPAN Studioさんと協力して無事入れ込むことができました。入れられて本当に良かったと思います。

※JAPAN Studio:PlayStation®のゲーム開発を行う世界的なスタジオネットワークWorld Wide Studios(WWS)のスタジオのひとつ。

―あと、この質問を聞くのはどうかとも思うんですけど、エンディングの最後、大人になった少年が掲げた鏡から、どんどん谷に向かってカメラがとんでいくじゃないですか。その最後の……ちょっと見えにくかったんですけど、暗くしたのにはなにか理由があったんでしょうか?

上田 大人になった少年が掲げた鏡の信号を感じたトリコが反応するシーンだよね。
実は、最後のカットはもっと明るいライティングだったんだけど、トリコたちの動きの完成度を上げる時間が無かったっていうのと、やはりここも想像の余地が有った方が良いだろうという判断もあって、ぎりぎりで真っ暗にしたんだよね。
ちなみに、大人になった少年からの信号を感じたトリコがカメラに向かって走り出して終わり、という案もあった。

「コンテ作成時にもっとも気をつけているのは、コストを最小限に抑えられること」

―ところで、物語の制作プロセスについて興味をもっているユーザーも多くいるようなんですが、何か決まった制作手法みたいなものってあったりするんですか?

上田 物語の部分、例えばエンディングのプロットなんかは、これまで『ICO』や『ワンダと巨像』の制作でもそうだったように、ある程度ゲーム本編、ゲームプレイの開発や実装が安定してからスタートするんだよね。

―それけっこうビックリしたんですけど、最初から物語が決まってるんじゃなくて、ある程度ゲームができてから物語を考え始めるってことですよね?

上田 そう。もちろん大まかなプロットは何個か考えていて、表現の実現度に合わせて調整していくんだけど。手順としてはざっくりとしたプロットのテキストメモから始まって、その時に揃っている道具やアセットの中で実現できる最適な表現や演出を組み上げていく。
制作の優先度としては、ゲームプレイが一番。カットシーン等の映像演出は、あくまでもゲームプレイを引き立てるものなので、どうしても優先度は低くなってしまう。同時並行できるほどチームリソースがあれば良いんだけど……
もちろん、より良い物語体験をしてほしいと思う気持ちもあるけど、最初にシナリオありきではないかな。

―ゲームプレイ優先の制作手法で言えば、それが合理的ということなんですね。
……というかこれは意外に思われるかもしれないけど、実は上田さん、かなりコスト意識高いですよね。

上田 高いも何も、コンテ作成時にもっとも気をつけているのは、コストを最小限に抑えられること。それが重要な条件。もちろん良い映像演出であるのは当然としてだけど。

インタビュー風景

―単にコストを削れれば良い、という話ではないんですよね。『人喰いの大鷲トリコ』を制作するうえでコストを抑えた具体例ってなにかありますか?

上田 例えば、回想シーンで村が出てくるので、村を再登場させたらよい。であればエンディングの舞台にも村を利用しよう、みたいな。とにかく追加アセットは可能な限り無くした上で、できるだけ感動的なカットシーンはないか、ということを考える。

―物語が自然につながっているので、プレイヤーはそんな作りかたをしてるとは思わないかも。僕も実際現場に入るまでずっと物語が先にできてるものだと思ってましたから。

上田 例えば、ラストで塔の屋上に出てくる大量の大鷲も、ちゃんとAIで動いているのは少年に一番近い1体だけ。あのシーンのトリコは決まったモーションのループ再生なので、トリコで使っているAI処理のパラメータを変更して少年から最寄りの敵大鷲1体に入れている。そうすればCPU負荷は変わらないでしょ。

―プログラム部分というか、処理負荷のコストカットですか。なるほど、そういうのも面白いですね。

上田 もちろん複数の大鷲を表示させるんで、描画負荷はそれなりではあるんだけど……このあたりの、見せたい映像をどう実装するか、ということも計算しながらコンテを描いている……というか、”設計”している。画コンテだけならいくらでも大風呂敷広げられるからこそ、常にコストに気を配ってないといけないんだよね。そこからさらにコンテを元にアセットを用意して、しかもリアルタイムレンダリングしないといけないので……

―セルアニメーションでも、セルでできる表現を意識してその枠の中でコンテを描いたりしますが、それに近いものがありますね。

田中 上田さんの絵コンテって、一見気が付かないんですが、同じアニメーションが姿を変えて何度も登場するように作られているんですよね。例えば、トリコが助走を付けて飛び立つアニメーションとか、村人を威嚇するトリコのアニメーションとか、微妙に違うんですが、動きの本質的な部分は同じです。最小限のアニメーションデータの組み合わせで表現できるようになってる。また、何度も同じアニメーションが登場する事でクオリティ維持にも役立っていますね。

エンディング絵コンテ

少年が連れ去られる回想シーンとエンディングの帰還のシーンでは、広場の村人に同じアニメーションなどを流用することでコストを抑えている

―そういえば、村人のような沢山のモブに動きを付けるというのもコストがかかる部分ですが、あれもうまくやってましたね。

田中 そうですね、あの村人たち全員の動きを少人数のスタジオで作っていたら大変なことになってしまいますよね。そこで、村人たちの動きはトリコのゲーム製作エンジンとは別の”Unity”という汎用ゲームエンジンを使ってゲームエンジン上でコントローラ操作可能なキャラとして作成しました。そこで操作したものを記録してアニメーションデータとして再生する、という手法を採用したんです。

※『人喰いの大鷲トリコ』はUnityで製作されておりません。JAPAN Studioオリジナルのゲームエンジンで実装されております。

―あれはおもしろかった。コントローラを使って演じて、それを記録する。アニメーションをつけること自体がゲームになってるような感覚でしたね。みんなでキャラになりきって。スタッフの誰が操作が上手い、とか。

田中 他にも、小動物なんかは『ICO』時代に上田さんが作成したものをサルベージして再利用したりしていますね。コウモリなど、『ICO』に入れられなかったアセットが『ワンダと巨像』から引き続き登場しています。

―クオリティとコストを両立させるために、単に真正面からぶつかるだけじゃなくって、絡め手を使ってみたり、色々工夫してるんですよね。他にも何かカットシーン作成時に気をつけていることってありますか?

上田 カットシーンの制作自体はゲーム本編と比較して不確定要素も少ないし、作っててもクリティカルなトラブルにみまわれることもあまりない。その作業自体に達成感があって、たいへんだけどとても楽しいんだよね。だけど、僕らは”映画”を作ってるんではなくて”ゲーム”を作っているわけで、そういった映像制作作業の魅力や魔力についつい満足してしまって飲み込まれないように開発中は常に気をつけて自制しているって部分かな。

「コウノトリは赤ん坊を運んでくるって言い伝えがあるよね」

―カットシーンの台本を作るときに上田さんとネタ出しを何度もやったのですが、ストーリーを練る段階で、目立って表には出てこない設定も多々あったんですよね。例えば、冒険の舞台となっているあの場所は、ずっと“大鷲の巣”とか“王家の谷”とか呼ばれていたんですが、最終的には「ウカイヤ」という名前になったんですよね。

上田 あれは「鵜飼い」の「谷」で「鵜飼谷」から。ネーミングや設定のモチーフを”鳥”縛りにしたかった(笑)。
作中にはちゃんと出てこないんだけど、「ウカイヤ」というネーミングをどうにか盛り込みたくて、最終的には周回したときの称号に使ってるけど。

※ウカイヤ勲章:『人喰いの大鷲トリコ』をクリアした時に貰えるおまけ要素。トリコの首に着けることができる。

―鵜飼いって鳥を使って魚を捕る漁なんですけど、その漁法が『人喰いの大鷲トリコ』の世界構図にピッタリだったんですよね。他にも、コウノトリを全体のモチーフに、っていってましたよね。

上田 そう、コウノトリは赤ん坊を運んでくるって言い伝えがあるよね。そのイメージを使えないかなー、と。
トリコに飲み込まれた少年の体に入れ墨状のアザがつく、っていうのもそういった言い伝えをヒントにしてたり。『人喰いの大鷲トリコ』のエンディングが終わった後の世界で、トリコがコウノトリのような役割として語り継がれていれば良いなーと。

―直接的ではないんだけど、「トリコウノ」っていう大鷲の呼び方にも名残がありますね。あ、そもそもあの世界では「トリコウノ」が大鷲という種を表す言葉なんだけど……

上田 子供なんかには発音が難しいので、「トリコ」って呼んでる。たとえばレモネードを「ラムネ」って呼ぶような感じ。なので、少年と仲良くなる大鷲も、そのほかの大鷲も、みんな「トリコ」。

―なんとなく相棒の大鷲が「トリコ」って思っちゃいがちですけど、猫や犬に対して「ネコ!」や「イヌ!」って呼んでるようなもんですね。

上田 うん、それはそれで子どもらしくてかわいいかなー、と。

―他には鏡の置かれていた棺の部屋とか、いくつか質問が来ていたと思います。あそこは設定としてはかなり重要な場所……ですよね?

上田 そうだね、あくまでも設定としての意味はある。たとえば、近くにある”泉”がどこかに繋がっているかも、とか……

―あの場所にある棺の形状にもちゃんと意味があるってことですよね。
あとは、塔のコアを破壊すると、敵大鷲がバタバタと落ちていくじゃないですか、あれはなぜなのかという声が多いみたいで。あの経緯に関しては、ある程度前フリがあったと思うんですけど、わかりにくかったですかね?

上田 うーん……あそこは十分伝わると思ってたんだけどね。説明すると、コアと大鷲は主従関係にあって、大鷲のツノを介して送受信を行っているんだけど、信号を発していた主であるコアが壊れた事で、全ての敵大鷲の機能が暴走した。最初は折れていたトリコのツノも、その時点で再生していたからコア破壊の影響を受けてはいるんだけど、少年との信頼関係の方が勝っている、ということで。

―トリコとずっと敵対していた1匹の大鷲も、途中で角が折れるので、最後に生き残れるんですよね。

上田 そうそう。

トリコと敵大鷲が戦ったシーン。敵大鷲に少年が押したトロッコが当たったことで、仮面が壊れると共にツノが折れている。この大鷲はエンディングにも登場

―そういえば、作中のカットシーンなどはgenDESIGNで作ってるんですよね。
ゲームデザインも含めて、インタラクションのある物語を作れるというのは強みですよね。

田中 エンディングに限らず、カットシーンは絵コンテ、アニメーション製作、ライティングなどをgenDESIGNが担当して、JAPAN Studioさんがシーンの組立や実装、PlayStation®4上での調整などを担当し、密に相談しながら作り上げていきました。

上田 あと、アニメーションによってはgenDESIGNから何社かのモーションスタジオにお願いしつつ、それを田中が監修して、という感じで作っていったんだよね。

田中 もちろんJAPAN Studioさんのスタッフにも手伝ってもらいましたが、X10studioさんとgenDESIGNでアニメーションを作り始めて、MARZA ANIMATION PLANET(以降:MARZA)さんとBIGFOOTさんとともに仕上げる、と言う感じでした。

―なるほど、外部の会社に頼んでいる部分もあったんですね。それぞれのスタジオが担当されたカットはどのあたりだったんですか?

田中 そうですね。MARZAさんが担当されていた中で印象的なのは、終盤でトリコに沢山の敵大鷲が襲いかかるシーンですね。あのアニメーションがあったからこそ、プレイヤーたちは必死になってトリコを助けようとしてくれました(笑)
BIGFOOTさんは、同じく塔のてっぺんで、敵大鷲が人を吐き出し後、タルを奪い合いながらキャッチするシーンですね。獰猛な一面を見せる敵大鷲達が、その後の不安を煽ってくれました。

―なるほど、いずれもその後のエンディングに繋がっていく印象的なシーンですよね。良い仕事をしていただいた、という感じでしょうか。
そういえば、楽曲も内部ではなかったですよね。

上田 そうだね。いろいろあって、作曲家の古川毅さんにお願いすることになったんだよね。

―”いろいろ”の部分が気になりますね。『人喰いの大鷲トリコ』の楽曲は『ICO』や『ワンダと巨像』に比べて、よりドラマチックというか、エモーショナルな感じを受けたんですけど、何か意図する部分はあったんですか?

上田 『ICO』や『ワンダと巨像』の音楽は、いわゆるゲーム音楽から離れて、なおかつ、できるだけ感情表現に抑えを効かせる、というのが音楽的なコンセプトだったんだけど、『人喰いの大鷲トリコ』では、そういった部分は継承しつつも、ディズニーやハリウッドみたいな”音楽的王道”を取り入れて、より多くの人にアピールしたいってのが希望で。いままでは、音楽としての”王道的なわかり易さ”をあえて避けてきたんだけど、裏を返すとメジャーな物を取り入れていくことに対する照れ、みたいなものがあった。でも『人喰いの大鷲トリコ』では、もうちょっと照れずにそういう方向に行ってみてもいいかな、と。

―そんな葛藤があったんですか。

上田 あとは、トリコの存在そのものや、世界設定やビジュアルに独自性を強く持たせているからこそ、音楽は比較的オーソドックスなものにしたかったのもあって。かといって、単に映画的な音楽ってだけだと安易な印象になりかねないし、そこはやっぱりゲームで使う音楽ではあるから、映画と同じように音楽で感情表現をしてしまうと、プレイヤーの気持ちと乖離が起きてしまう懸念があった。そこで、王道で高品質な楽曲を作る事が出来て、なおかつ抑えの効いた表現をできる作曲家として古川毅さんにお願いすることにしたんだよね。

古川毅さん

古川毅さん、『人喰いの大鷲トリコ』、作曲を担当

―なるほど。古川毅さんに決まるまでには、そういう経緯があったんですね。『人喰いの大鷲トリコ』に合った素晴らしい音楽になったと思います。あと、外部の人といえば、今回リサ・ラーソンさんにトリコフィギュアを作って貰ったのにはかなり驚きました。

※リサ・ラーソン:スウェーデン出身の世界的に有名な彫刻家。代表作に「LION」「MIKEY」などがある。

上田 そうそう。結構ダメ元だったんだけど、タイミングが良かったのと、JAPAN Studioさんのがんばりもあって受けてもらえる事になったんだよね。

リサ・ラーソンさんに作っていただいたトリコフィギュア

―たしか、最初にリサ・ラーソンさんから送られてきたプロトタイプを見せてもらった時、トリコの耳の位置が現物とは違ってたんですよね。お願いして修正してもらいましたけど、勝手にヒヤヒヤしてました(笑)そもそもフィギュアを作ろうと思った経緯ってどんな感じだったんですか?

上田 もともとリアルフィギュアの話はいくつかあったんだけど……これは僕だけかもしれないんだけど、フィギュアっていっときのテンションで買うことはあっても、引っ越しや大掃除の時に処分してしまう事が多くて。トリコのフィギュアを作ったとしても、そうなってしまったら悲しいし、なかなかGOを出せなかったんだよね。

―あー、なんかわかります。フィギュアをカートに入れて、購入ボタンを押した時が喜びのピークで、届いた頃には「何で買ったんだっけ……」と反省する事もあったりして。

上田 それで、引っ越しや大掃除の際でも手元に残しておきたいと思えるものってなんだろう、って考えた時、リサ・ラーソンさんが浮かんだんだよね。半分ダメ元で提案したんだけど、色んな人が繋いでくれたりして、運が良かった。

―いやー、ホントまさか、って感じでしたよ。お宝だし、みんな欲しがったんじゃないですか?

上田 まあ、そうだね(笑)